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専攻科看護科入学式 式辞

 あたたかな風が吹き、夜明けとともにウグイスの声が聞こえてきます。青空のもと校庭の桜も満開となり、白石高校にも春が訪れました。

 保護者の皆様、卒業式からまだ日も浅い中ではございますが、本日、専攻科看護科の入学式を迎えることができましたことを、大変うれしく思います。ご入学、誠におめでとうございます。

 過日、私はここにいる生徒一人一人と面談をいたしました。
 皆、大変すばらしい生徒たちでした。白高・白女の伝統でもあるオープンマインドと申しましょうか、明るい生徒、真面目な生徒、それぞれに個性はありますが、皆が素直で思いやりのある生徒たちでした。

 面談では、実習で担当した患者さんについての話も伺いました。ご高齢で認知症の方、寝たきりの方など、状況はさまざまでした。そこで多くの生徒が、「全介助」を経験したことがあるとのことでした。いわゆる下のお世話も行ったのですかと尋ねると、「大丈夫です」と答えてくれました。

 その経験で「看護師になることに迷いは生まれませんでしたか」と尋ねると、皆、笑顔で「看護師になりたいです」と答えてくれました。その言葉に、私は感心するとともに、大変心強く感じました。ここにいる生徒たちの、この前向きでおおらかな心は、ご家庭で大切に育てていただいたものだと思います。保護者の皆様には、改めて心より感謝申し上げます。

 さて、専攻科に入学する皆さん。
 専攻科では、高校までとは比べものにならないほど多くのことを学ぶことになります。最大の目標は2年後の国家試験の合格です。

 そのために、これから臨地実習も増えます。病院では、技術的なスキルを学ぶのはもちろんのこと、患者様をはじめ、医師や看護師など、多くの人々との信頼関係を築くことが求められます。

 先日の卒業式で、「疾患」と「病」の違いについてお話ししました。覚えていますか。
 「疾患」は医師によって技術的に治療されるもの、そして「病」は患者が感じている心の苦しみでした。そこで、看護師にとって大切なのは、患者の気持ちに寄り添うことであるとお伝えしました。人は「心」によって支えられ、安心し、そして回復へと向かっていくのです。

 ここで、少し「心」の話をします。私は、3年前に悪性リンパ腫というがんを患い、半年間の抗がん剤治療を受けました。

 抗がん剤の副作用とはどのようなものか、知っていますか?

 私の場合、とてもにおいに過敏になりました。健康な時には全く気付かないようないろいろなにおいが重なり私を苦しめました。あるお店に入った時です。入った瞬間、「うっ」と思いました。思わす息を止めてそそくさと買い物をし、小走りに店を出て、外の空気で深呼吸をした記憶があります。

 さて、すごいにおいのお店とは、何でしょう?

 答えは、ローソンです。ビニール傘のにおい、新聞のにおい、雑誌、衣料品、文具、整髪料、洗剤、歯磨き、お弁当、パン、から揚げ、それら一つ一つがかすかなにおいを放っています。それらが混ざると、過敏な人にとっては、耐え難いにおいとなります。今は健康を取り戻し、そうしたにおいを感じることもなくなりましたが、当時はそれほどまでに敏感になっていました。

 もう一つの副作用も困りました。指の先端が痛いのです。指の腹は大丈夫なのですが、先端だけ、爪の下の部分の神経が過敏になり、さわると痛いのです。やけどの痛みのような、針を刺すような痛みでした。日常生活の中でも、指先を使わなければできないことがたくさんあります。その中で、特に困ったことがありました。

 さて、それは何だと思いますか?

 答えは、洋服のボタンを留めることです。ボタンは力を入れないと布の穴に通らないのです。毎日、指先に針を刺すような痛みを我慢しながら、ボタンを留めました。ひとつ留め終わる毎に、ため息をついていました。

 病気になると、人は健康なときには想像もできないような不便や苦しさを抱えることがあります。外から見ただけでは分からない痛みやつらさが、そこにはあるのです。そのとき、私は「ボタンを留めてください」と言うことができませんでした。

 患者がそう言えない「心」が、皆さんには想像できますか。なぜ言えないのでしょうか?
 それは、できない自分を認めたくないのです。これまで通り、できる自分でありたいのです。そして、大人であるがゆえに、誰かに頼ることにもためらいがあります。私は、家族にさえ「ボタンを留めて」と言うことができませんでした。だから、痛くても我慢して自分で留めていました。当事者になってみないと、このような「心」はなかなか想像できないものです。今、私は健康を取り戻したからこそ、この話をすることができます。もしも今も痛みの中にあったなら、おそらく誰にも言えないままだと思います。

 世の中には、病気とともに生きている人がたくさんいます。そして、その症状も、一人一人異なります。困っていることもまた、それぞれ違うのです。だからこそ看護師には、患者様の言葉だけでなく、その背後にある「心」を感じ取る力が求められるのだと思います。言葉にならない不安や痛みに気づくこと、それが看護の大切な役割ではないでしょうか。

 これから皆さんは、多くの患者さんと出会うことになります。その一人一人との出会いから、ぜひ多くのことを学び、経験として積み重ねてください。うまくいくこともあれば、思うようにいかないこともあるでしょう。しかし、そのすべてが大切な経験となります。その積み重ねが多ければ多いほど、看護師として信頼される存在へと成長していくのだと思います。

 皆さんが目指している看護師という仕事は、本当に尊い仕事です。私は、看護科の校長として、ここにいる皆さんのことを誇りに思っています。最後になりますが、白石高等学校看護科専攻科第十七回生の皆さんが、それぞれの夢の実現に向けて学び続けていくことを心から期待し、式辞といたします。

看護の道を志した皆さんの前途に、心からの期待を寄せております。

 

令和八年四月八日 

宮城県白石高等学校 専攻科看護科 校長 若林春日

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専攻科看護科入学式 式辞

 

 不忘山が白く輝き、白梅の爽やかな香の中、沢端川には水が清らかに流れています。ここ宮城県白石高等学校にも春が訪れています。

 本日は多くの保護者の皆様にご臨席賜り、専攻科入学式を挙行できることを職員一同、深く感謝申し上げます。

 それから保護者の皆様、ご息女のご入学を、心よりお祝い申し上げます。

 専攻科の皆さん、ご入学、誠におめでとうございます。ここで少し私の経験を話したいと思います。私はちょうど2年前の令和5年の2月に腸重積で入院しました。腸重積という病気を知っていますか。腸重積とは大腸の中に小腸が潜り込むという病気です。

 疝痛という痛みでした。どんな痛みか説明できますか。そう、ナイフで刺されたような痛みです。ナイフで腹を刺した経験など、ないのですが確かにナイフが刺さったような痛みでした。その後、全身麻酔で大腸と小腸を40㎝程度切除し、繋ぎました。手術の後、摘出した回腸の中に悪性リンパ腫というがんが見つかり、その後半年間の抗がん剤治療を受けました。私はそれまで大きな病気をしたことがありませんでした。ですから病院のこともよく知りませんでした。

  当たり前なのですが病院には、大勢の患者がいました。若者も老人も、ありとあらゆる職業であろう方々が病院の待合室に、入院病棟にいました。考えてみると当たり前のことなのですが、街で見掛けるすべての人々は歳をとり、いつかは病気になります。いつも電車で見掛ける人、街を歩いている人、あるいは親戚や家族の方々、周囲にいる人を、君たちは、いつかどこかの病院で看護師として助ける立場になるのです。

 専攻科の皆さんは、とても尊い仕事を目指していると思っています。校長として誇らしく思います。そして深く感謝いたします。

  次に「人に好かれる能力」について話したいと思います。「人に好かれる能力」とはどのような能力だと思いますか。

 好感度・違います。

 清潔感・違います。

 服装のセンス・違います。

  答えは、自分から人を好きになる能力です。先に自分が人を好きになることです。誰でも、心を開いて笑顔であいさつしてくれる人を、悪く思いません。

 2年前、私は抗がん剤治療で髪の毛が全くない状態で校長をしていました。とても恥ずかしかったです。そして悪性リンパ腫について調べてみると5年生存率が70%ということを知り、一人になると、なんとも言えない後悔と不安で落ち込む日々でした。

 そんな中で学校に行くと、元気に笑顔で挨拶してくれる生徒達に救われました。弱っている人にとって、笑顔をもらえることが、どれだけ心に響くのかがわかりました。ちょっとした笑顔で救われる人がいるということを知っておいてください。

 最後に、専攻科と臨地実習の学びで大切にしてほしいことがあります。それは、すべての人から学ぶことです。先生から学ぶことはもちろんですが、先輩や友人からも学ぶことが大切です。「学び」というのは勉強だけではありません。考え方であったり、振る舞いであったり、全てのことは他の誰かから学び、身に着けたものです。これは社会人となって、病院に勤務するようになってからも同じです。一生、人から学び続けるのが人生です。専攻科の皆さん、これからできるだけ多くの人と関わり、いいと思ったことを身につけながら、素晴らしい看護師になって欲しいと思います。

 最後になりますが、白石高等学校 看護科専攻科 第16回生のみなさんの夢の実現に向けて、大いなる活躍を心から期待して式辞といたします。

 

宮城県白石高等学校 専攻科 校長 若林春日